『~約束は出来ないけれど笑うことなら出来るんだ~』

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先生を失ってやりきれない感情をもて余しているのは何もお前だけじゃないんだよ、稔麿。 俺だって幕府が憎いんだ。 でも、復讐に取り付かれた俺はきっと先生が望む姿じゃないから。 「稔麿、死ぬな」 「晋作…」 「お願いだから死ぬなんて簡単に言わないでくれ」 「……」 「俺は、玄武や九一や俊輔や稔麿……皆で長生きしてえんだ。先生が生きれなかった分、生きていたいんだよ」 「……」 「……なあ、稔麿。俺の馬鹿げた夢を、どうか壊さないでくれ」 馬鹿げた夢だろ? こんな時代なんだ、叶うはずもない。 だけどさ、やっぱり夢を見てしまうんだ。 皆で笑い合う、そんな未来を。 叶うはずないって十分理解してるけど、それでも。 「…晋作は、本当に馬鹿だね。無鉄砲で、昔から何も変わらない」 「な、」 「…あ、はは。馬鹿だよ本当に馬鹿だ。そんな夢見ちゃうなんてさ…っ」 ごめんなさい、晋作。 僕には昔からお世話になっている貴方の小さな夢すら、叶えることが出来そうにない。 本当に馬鹿なのは僕だと分かってる。 だけど、やっぱり僕は…―― 「……晋作、今日はありがとね。まあ、死なないように努力はするよ」 「、稔麿!」 「あはは、嬉しそうな顔して…。でも、努力するだけだから。約束は出来ないよ」 「あぁそれでいい………稔麿、俺達は精一杯生きような」 「……そうだね」 平気で嘘を吐く僕に騙された晋作を横目で見ながら、僕はゆっくりと旅館を出た。 外に出た瞬間にもわりと立ち込める熱気にうんざりしながら、僕は深く傘をかぶり足早に旅館から離れる。 そのまま目的地もなく足早に歩き続けながら、僕は小さく呟いた。 「晋作。貴方は僕に死んでほしくないと言ったけれど僕だって晋作には死んでほしくないんだよ?」 心を閉ざしていた幼い頃の僕に笑って手を伸ばしてくれた晋作は、初めて会ったときから僕には大切な人で。 まるで本当の兄のように僕を構ってくれた晋作達に、僕は中々素直になれないけれど本当に感謝していて。 「ごめんなさい、晋作。でも僕は、貴方達には生きてほしい…」 貴方の言う甘い夢に心を動かされたのは事実。 だけど、綺麗事だけじゃ幕府は倒れない。 しとしとと降りだした雨が、何故だかとても綺麗に見えて。 立ち止まり空を見上げた稔麿の頬を伝った水滴は、ゆっくりと地面へと吸い込まれていった。 【END】
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