『~手を離したその先は~』

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「…っ、なんでです!」 「ふふ、静かにしなくては駄目ですよ」 ふにゃり、幼く柔らかく笑う貴方が、俺の髪をその白くて細い手で触る。 前に逢ったときよりも幾らか細くなっている身体に、それでも前と同じ変わらない笑顔。 「うん、やっぱり高杉君の髪はふわふわで柔らかいですねぇ。まるで猫の毛並みのようです。猫好きの私としては、触らずにはいられません」 「…、そんなことはどうでもいいんですよっ!俺は、なんで貴方が今獄に入っているのか、どうして俺達の制止の声を聞いてくれなかったのかを聞きたいんですよ!」 俺の髪をまるで遊ぶかのように揺らす貴方に必死の声で叫ぶ。 どうして、貴方はいつも勝手にいってしまうのか。 なんで、俺達のことを置いていってしまうのか。 答えは十分すぎるほどに分かっているけれど、そんなの認めたくなくて。 だけど、檻の中にいる貴方は本当にいつもと変わらずに、急いで駆けつけた俺を見て優しい笑顔で笑うんだ。 「ふふ、本当に高杉君はいつも真っ直ぐですねぇ。妬ましくて羨ましすぎて、いっそ君を恨みたくなりますよ」 「ぇ……」 「冗談ですよ、私は冗談が好きな男ですから。私が高杉君を恨む筈がないでしょう。例え私が高杉君に恨まれることがあったとしても…」 「先生?何を言ってるんですか…先生…!?」 ねえ、貴方はなんでそんな寂しげな顔をするんですか。 どうしてそんなにも満ち足りた顔で笑うんです。 ねえ、だって、貴方はまだまだ俺達に沢山のことを教えてくれる筈でしょう。 世の中を、俺達と一緒に学ぶと約束したでしょう。 何を、そんなに急いでるんですか先生……! 「ふふ、そんな顔をしないでください。君だって本当は分かっている筈ですよ?」 「っ、俺は何も分かりません!先生が側に居ないのにわかるはずがないじゃないですか…!」 「……ふふ、今こんなことを言うのもなんですが、ありがとうございます高杉君。私はきっと世界で一番の幸福者ですよ。こんなにも私を慕ってくれる人がいるなんて」 そう、先生の唇が動いて。 「さようなら、高杉君。もう君に教えることはありません。だから私が居なくなった後は、自分の手で、目で、身体でこの世をきちんと見て、そして変えてみなさい。それが、私からの最後の課題です……」 今まで見たこともないような幸せそうな、優しい笑顔を俺に向けて、俺をその細い腕でドンと押した。
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