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「ちょっ…!お前ふざけんなよ!なんでいきなりこんなとこまで無理矢理引っ張ってきやがった!今は奇兵隊の訓練中だぞ!?」
「五月蝿いよ、僕は今怒ってるんだから。あと、僕が怒ってるのは晋作の性為なんだからね?」
「はあっ!?………おっまえ逆ギレかよおい……で?なんでそんなにしけた面してやがる……―――九一」
「しけた面?まあ、晋作が僕に黙って奇兵隊なんか作って色々やってたから、ちょっと怒ってはいるけどね。それが晋作にはしけた面に見えるのかもね」
「……は?」
まるで拗ねたような、不貞腐れたような顔をしている九一に、俺は怒りも忘れて目の前の男を見た。
―――時は文久3年。
幕府に投獄されていた幼馴染みが釈放されたと聞いて即座に会いにいったが、どうやら俺は早速やらかしてしまったらしい。
「……落ち着けよ、九一。仕方無いだろ?九一は投獄されていたんだし、お前を待ってる暇なんか無かったんだよ」
「…ふぅん。晋作は僕なんか要らないって言うんだね。まあ、投獄されたような奴だから仕方無いけど…さ」
「だぁあぁぁあああ!ちっげーよ、馬鹿っ!!」
傷付いたように瞳を揺らしながら、それでも笑う九一に俺は我慢ならずに声をあげる。
がっと荒っぽく九一の肩を掴み、鼻が当たるくらいに顔を近づければ、驚いたように見開いた色素の薄い双眸と目があった。
「お前が要らないなんて一言も俺は言ってねえだろうが!何の為に忙しいのにわざわざ時間作って俺がお前に会いに行ったと思ってんだ!」
「……晋作?」
「お前が必要だからだろうが!この俺が、他の誰でもないお前を、必要だと思ってるからだろう!自分を要らないなんか冗談でも言うんじゃねえよ!誰の為に俺が奇兵隊の参謀枠を空けてたと思ってんだ!」
「………参、謀…?」
「あぁ?文句あるか?俺はお前に奇兵隊の参謀を頼みたいと思ってたんだよ。他でもない、お前にな」
「………あ、はは。ほんと晋作には敵わないや………」
驚いたように目を見開いた九一に書類を―――奇兵隊の参謀枠が空いた名簿を見せれば、九一が泣きそうな顔で笑った。
――昔からだが、九一はどうも変な方向に突っ走る傾向がある。
自分の中で完結してしまい、そこで終わってしまうのだ。
自分の価値を自分では見出だせずにいる姿は昔と同じで……――。
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