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「――――さよなら、晋作」
なあ、なんでお前はそんな寂しげな顔で俺に触れるんだ……――?
―――時は無情にも過ぎていく。
高杉と入江が初めて接吻をしたあの日から一年後、長州の優秀な志士達が次々と時代の荒波に消えていった。
吉田稔麿は池田屋での討ち死に、久坂玄武は禁門の変での自刃、そして入江九一は……。
「……はは、元足軽だったお前が切腹で死ぬなんてなぁ……」
無邪気で引っ込み思案だった、綺麗に笑う幼馴染みは、自分を遺して死んでいった。
それが、どうしようもなく悔しくて悲しくて寂しくて……―――。
「………はは、お前が俺に絶対に決定的な言葉を言わなかったのはこんな結末を予想してたからか…?………ま、今となっちゃあどちらだって構わない、か……」
あの日から一度も俺に触れることなく、結局あの日の出来事の意味や真意はうやむやになってしまったけれど。
でも。
「…なあ、お前が今の俺を見たら…どう思う?九一…」
ごほっと咳き込んだ口許に付着する――――血。
労核になり、病に侵された身体はもう限界が近付いていて。
ふっと笑いながら、俺は一足先に先立った仲間を想う。
―――ごめんな、九一。
俺がこんな風になったなんて知ったら、お前は生きてくれなんて言うのかもしれないけれど。
でも、それでも俺は………。
―――ふわっ
不意に、どこか優しい風が高杉の周りを通り過ぎた。
その風を感じた高杉は、一瞬固まったが次の瞬間にふにゃりと笑った。
「―――そっか。お前も寂しいんだな、九一」
今、そっちにいくからよ
そう言い笑った高杉が空に向かってゆらりと手を伸ばし、そして………――――。
伸ばされた手がなにも掴むことなくごとりと畳に落ちる。
その場は、もう高杉の一人言も聞こえなくて。
ただ、薄い微笑みを浮かべた男が、もう動かなくなった身体を布団に横たえていた。
―――享年27。
こうして長州四天王最後の男は、笑いながら息を引き取ったのだった………―――。
【END】
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