さざなみに百鬼夜行

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さざなみに百鬼夜行

北側の渡り廊下は 位置の都合と木々の位置のせいでいつも薄暗い しかしながら風は通るし日陰が続くので、あつい季節にはたまらなく魅力的で わざわざ遠回りしてこちら側を通る生徒も多い 例に漏れず僕もそう 腕に抱えた新しい本にわくわくしながら、額を撫でる風に思わず笑った。 その時 誰かが横を通った気がして足を止める。 振り向くように後ろを向いてみるが、しかし誰もいない 少々首をかしげ歩き出す。足元を通過中の蟻の行列に気がついて避ければ また誰かが横を通った気がして足を止めた しかしながら案の定、振り返っても誰もいなくて 僕は再度首をかしげ歩き出した。 さらさらと風に木漏れ日が揺れて、足元の影がさざ波のように見える と、今度は僕の両サイドを誰かが通った その気配に顔を上げ、僕にしては機敏に振り向けば そこは人の波だった 生徒がひしめき むこうからこちらに歩いてくる ザワザワ、ザワザワと揺れる波のような気配はあるのに 全てが僕の体をすり抜けて通りすぎる。 半透明の生徒達には、僕の見知った同級生も混じっていて 彼らを目線で追いかければ、その群れにはなんと、僕自身も混じっていた 僕が僕自身とすれ違い、幻は全て後方へ流れる 気配がゆっくりと引いて幻が消え失せた渡り廊下 すのこに止まったキリギリスだけが、ギィギギィギと鳴いていて 僕はポツンと立っていた 「夢、か」 なんとなく、そう思った。僕の幻が、一昨日この渡り廊下を通った時そのままに、カルメン前奏曲の楽譜なんて持っていたから きっとこれは 渡り廊下が一昨日の記憶を夢を見たんだ、と思った 僕は今日も、その渡り廊下を通る 夏の間は止められそうにない 今日は誰もいないけれど 半透明のキリギリスだけがギィギギィギと、音も立てずに鳴いていた
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