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第三日曜日の真っ昼間 日差しにめまいがしそうな校庭で野球部がバラバラと歩く 暑さを避けるため、体育館横の日陰で昼休みを過ごすらしい 見れば、最後までボールを拾うクラスメートの姿 坊主頭の日焼けした奴で、アダ名は『マリーン』 別に海軍ってわけじゃない。中学から野球をやってて、珍しくも投げ方がサブマリンなんだ。 そんなマリーンも、高校野球部じゃあ一番下っ端。ボール拾いもまぁ仕方ない マリーンは僕に気づくと、ちょっと無愛想に手をあげてから 「お前校庭に入って来んなよ」 と、言った。 その言い方にムカっとした顔をしたが、マリーンは先輩に呼ばれてふいっと横を向き、体育館の日陰へいってしまう なんだよ、校庭はみんなのものだぞー、と フェンスの間から中に入りずかずかと歩き回り、校庭を独占する楽しさを意味もなく堪能して ふと、車の音がしないなと道路に目線を写したときだった。 フェンスに沿って並ぶ大小の鉄棒で、ぐるんっ、ぐるんっと回る小さな影が目を入った 大きさからして子供で 鉄棒の高さからして間違いなく子供で 自分も小さい頃、夢中で連続逆上がりをしたっけとなんだか微笑ましく思った いーち、にーい、さーん 笑いながら影が回る数を数えて じゅうさん、じゅうし、じゅうご 20を越えたあたりでようやく、馬鹿みたいに明るい校庭で、ソレが真っ黒な影にしか見えない違和感に気がついて ついでにソレの足元に、本当の影が無いことも気が付いた あ、まずい って思った時にはもう遅かった。 影がぐるんっ、ぐるんっと回る度にふらふらと、僕の足が勝手に鉄棒に近づいていく 上半身は逃げたくて後ろに沿っているのに 足は引き摺られるように前へ前へ進み あ、やばいやばい コレ本当にダメな奴だ 大分近づいて、影には目も口もないのに、ゲラゲラ、ゲラゲラと笑っているのを感じ さすが狼狽える べちゃべちゃとした質感で、体の所々が変に歪んでいる。気持ち悪い 生臭い臭いに、醜悪な感情をぐちゃぐちゃに混ぜたような気配 余りのいびつさに、僕が死を覚悟したとき ヒュッっという音がして、後頭部にズガン!と衝撃が走る 前のめりによろめいて咄嗟に起き上がり、自由を取り戻した体で数歩鉄棒から逃げる みっともなく悲鳴を挙げて振り向けば マリーンがさっきと同じ無愛想な顔で立っていた 「“だから”校庭入って来んなっつったろ」 命の恩人たるボールが足下を転って 僕は 「ごめん」 と、謝った
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