冒頭

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薄暗い部屋の中心にある丸い机の上にゆらゆらと火を揺らすロウソクが立っていた。部屋に窓などは無いのか完全な暗闇だった。ロウソクの火が照らしているのはこの部屋の中でもこの机と椅子、そしてその椅子に座る一人の少女だけだ。少女はまるで人形のような整った綺麗な顔をしていたが、その顔はまるで生気が感じられなかった。少女は腰の部分まで伸びている銀髪を椅子の背もたれの後ろに垂らし深く腰掛けていた。ロウソクは長い時間燃えていたのか半分くらいまで溶けており形も大分崩れていた。しかし、不思議とそれ以上溶けていく様子はない。まるでロウソクの時間だけが止まっているようだった。 少女は静かな動きで机の上にある" カード"を手に取った。 机の上にはロウソクを丸く囲うようカードが置かれていた。数は机の上に12枚と少女が手に取った1枚を合わせた計13枚。その13枚のカードそれぞれに魔法陣と呪文が描かれていた。 少女は手に取ったカードに描かれている呪文を唱えた。 『汝、我が願いを聞き入れたならば異界への道を印せ、汝の願いを聞き入れたならば世界への扉を開かん』 呪文を唱え終える少女はカードを元の場所へ戻した。 すると、カードに描かれた魔法陣が輝きだしそれに反応するように隣りのカードが輝きそしてまた隣りのカードへと輝きが繋がっていった。そして13枚のカードが全て輝くとカードの魔法陣が浮き出し、徐々に回り出したかと思うとそのまま部屋の天井へとのぼり消えていった。 少女は魔法陣が消えていった天井をしばらく見つめたあと、視線を机に戻した。机の上のカードの魔法陣が消えていた。するとカードがサラサラと音を立てて形を崩していきやがて完全に消えてしまった。その様子をまるで感情がない表情で見ていた少女だったが消えていったカードを見つめる瞳はどこか悲しげな光をしていた。
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