自分の尻尾を追いかける犬

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人は死んだら何処へ行くの? なんて歌詞の歌があったっけ。 確かスリーピースバンドのミディアムバラードだったはず。 残念ながら僕にはその答えはわからないけれど、どうやら高校生は、死んだら花に取って代わられるようだ。 真っ白い花に。ユリの花に。 うちのクラスだけかな? 三年A組の教室には、いたたまれない空気がただよっていた。 古典の朱川先生は、いつもと変わらない、日本語と思えないような呪文を唱えている。 「・・・眠れない源氏は、手習いのように書くんです。『うつせみの、身をかへてける木のもとに、なほ人がらの、なつかしきかな』これは、セミが殻を脱ぐように、衣を脱ぎ捨てて出ていった・・・」 舌っ足らずにもたつくスローなしゃべり方は、波打つようなリズムと相まってクラス中を眠りに誘う。 このラリホーがよく効くんだ。 からくも呪文からまぬがれた生徒たちは、思いおもいの時をすごしている。 机の下に手を入れているやつらは、たいていスマホをいじっている。
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