自分の尻尾を追いかける犬

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佐々木さんたちのグループは、LINEで会話。 安城くんと茂木くんは競い合うようにドロップをつなげてモンスター討伐。 不自然に教科書を立てている矢作くんは、その内側で激闘を繰り広げるネジと鬼童丸に心熱くしていることだろう。 高津くんが先生の板書のタイミングに合わせて口に放り込んでいるのは、果汁グミ。 噛んでも音のしないグミを選んだのは、彼なりの気遣いなのかもしれない。 かくいう僕も、教科書のあいだに挟んだチェスタトンで現実逃避をしていた。 青年が、丸メガネの神父に「犬が吠えた」と説明しているシーンだった。 もちろん、朱川先生の話に真摯に耳を傾けている生徒もいる。 僕の前の席につく、兵堂さんもそのひとり。 下の名前は敦子。 学級委員長を務める才媛。 しかも、美人時計のモデルにもなったというのだから、天は二物を与えたものだ。 長い髪を束ねたシュシュでさえ、麗しい。 僕はそんな彼女の後頭部を一心にみつめ、「振り向いてくれ」と念じてみる。 涼やかな瞳を、今、僕に向けてくれないか、と。
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