自分の尻尾を追いかける犬

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使えるはずのない念力は、三十秒ももたずバカらしくなってやめた。 再び、チェスタトンにもどる。 神父にはどうやら真相が見えたらしい。 朱川先生は、教壇に教科書を置くとさらりと言ってのける。 「ここは次の定期テストで、重要な出題ポイントになります。何度も書いて覚えてください」 途端に、寝ていたはずの生徒たちがペンを走らせる。 「重要なポイントです。空蝉だけに・・・ノートに写せ、み。なんて」 呆れるほどくだらないダジャレに、生徒たちもまばらな愛想笑いで返す。 これが、退屈な日常。 退屈な高校生活の一場面。 ・・・のはずだった。 でも、今日は違った。 教室内を漂う、浮ついた感覚。 平静を取り繕うような、居心地の悪さ。 その理由は空っぽの席にあった。 窓際から二列目の、前から三番目。 その席に座っているはずの図書委員、森澄江がいない。
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