五百円玉の行方

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「こんなところで、財布なんか出すんじゃないぞ。気をつけろ」 先生はベルトにつけていた鍵束の中のひとつを選び出し、渋々ドアノブに差し込んだ。 ドアが開くと同時に、むせ返るような糞尿の匂いがした。 「くっせ! なんだ、この匂い」 首吊り自殺をした人は、往々にして糞尿を漏らすことがあるという。 だとしたら、やっぱり。 「五百円玉が、こっちの奥に転がって行ったような・・・」 白々しくつぶやきながら、僕は体育倉庫の奥へ歩を進めた。 そして部屋の突き当りを見上げると、それはあった。 天井の梁から垂らされた綱引き用のロープで、首を吊っている女生徒の死体が。 ああ、これが人の死というものか。 ポラロイド写真に写っていたものと、寸分違わない。 本物の死体を目にしたというのに、僕は案外冷静だった。 どちらかと言えば、女生徒の死よりも、馬場園くんの言っていることが本当だということに驚きを感じていた。 間違いない、あの写真は本物だ、と。 ※ ※ ※ ※ ※
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