第1章

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夕闇が辺りを満たす頃。 学校から家への帰り道に、もう学生の姿は見えない。 だから、私は安心してあの扉を開ける事が出来るんだ。 表通りから一本路地を入って、曲がり角を曲がると一気に音が少なくなる。 ブロック塀の上でいつも寛いでいるふっくらとした白い猫は、近付くのは許してくれるけれど、まだ一度も触らせてはくれないの。 そして、その路地にひっそりと佇む古風な扉が、私の目的地。 ギィっと、どんなに気を付けて開けても鳴る扉の向こうには、独特の古書の香りとBGMひとつ掛かっていない静かな空間が待っている。 「……いらっしゃいませ」 カウンターの彼は、こちらを殆ど見もしないで、ぼそりとそう言った。 それも、いつもの事。 たぶん、見てはいないんだろうけど、それでも小さく頭を下げる時はいつも胸がドキドキする。
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