115人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
弟は見つける。
兄の手首のそのあとを。
(…なんつうか、あれだよなぁ…)
映画とかAVとかそういった類のものでみたことある。
(縛られたあと、ってヤツだよなぁ…)
この弟、見ず知らずの人間を拘束させたりすることはあっても、解かれる前、もしくは、解かずに放置していくため、縛られた痕を見たことがない。
だから、生で見るのは自分の兄の手首にあるそれが初めてだった。
コーヒーカップにドリップしたそれを注ぐ兄、清正は眉間にもの凄い皺を寄せている。
(あれって、いい香りすんじゃねぇの、何その顔は~…)
弟、忠宣の今日の予定は特にない。学校はいつか顔をだせばいいし、アレはサッカーの何かがあったはず。予定を気遣ってやるなんて、ずいぶんとオレも変わったもんだ。弟は少し気分がよくなる。
変わったっていえばさ。
(兄貴のアレもさぁ…)
眉間のしわ。
確かに昔から眼つきは悪かったが、最近のアレは以前と違う。
なんていうか。
(常に、自分の人生を否定してるっていうか、)
(何か認めたくないことでもあるっていうか、)
「…あ?お前、さっきから何見てんだよ、」
そう言って兄はハッとする。
弟の視線が注がれていたのは自分の左手首。
「…あー、なんつうか…」
弟もその反応に気づくのだ。
「それって、」
それって、これだよな。
兄はチッと舌打ちをして、半ば諦める。
聞かれたって、どうせ本当のことなど言う気はない。
まさか、縛られて泣くまで許されなくて…。
そんなことを思い出してどうしようもなくなる。何を自分で墓穴掘ってんだか。
クソ、忌々しい。
アイツの顔。
優男みたいな顔しときながら、瞼を閉じて、もう一度開いた瞬間に色が変わるのだ。
アレに睨まれたら通りの大概の人間は道を譲るものだ。
それを思い出してさらに、どうしようもなくなるのだから、本当に自分はどうにかしている。
そして、弟の存在を思い出す。
それって、
「すげぇ、そそられる…。」
「……。」
それはそれは、ずいぶん久しぶりに兄の眉間のしわがふっと消えた瞬間だった。
最初のコメントを投稿しよう!