第1章

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弟は見つける。 兄の手首のそのあとを。 (…なんつうか、あれだよなぁ…) 映画とかAVとかそういった類のものでみたことある。 (縛られたあと、ってヤツだよなぁ…) この弟、見ず知らずの人間を拘束させたりすることはあっても、解かれる前、もしくは、解かずに放置していくため、縛られた痕を見たことがない。 だから、生で見るのは自分の兄の手首にあるそれが初めてだった。 コーヒーカップにドリップしたそれを注ぐ兄、清正は眉間にもの凄い皺を寄せている。 (あれって、いい香りすんじゃねぇの、何その顔は~…) 弟、忠宣の今日の予定は特にない。学校はいつか顔をだせばいいし、アレはサッカーの何かがあったはず。予定を気遣ってやるなんて、ずいぶんとオレも変わったもんだ。弟は少し気分がよくなる。 変わったっていえばさ。 (兄貴のアレもさぁ…) 眉間のしわ。 確かに昔から眼つきは悪かったが、最近のアレは以前と違う。 なんていうか。 (常に、自分の人生を否定してるっていうか、) (何か認めたくないことでもあるっていうか、) 「…あ?お前、さっきから何見てんだよ、」 そう言って兄はハッとする。 弟の視線が注がれていたのは自分の左手首。 「…あー、なんつうか…」 弟もその反応に気づくのだ。 「それって、」 それって、これだよな。 兄はチッと舌打ちをして、半ば諦める。 聞かれたって、どうせ本当のことなど言う気はない。 まさか、縛られて泣くまで許されなくて…。 そんなことを思い出してどうしようもなくなる。何を自分で墓穴掘ってんだか。 クソ、忌々しい。 アイツの顔。 優男みたいな顔しときながら、瞼を閉じて、もう一度開いた瞬間に色が変わるのだ。 アレに睨まれたら通りの大概の人間は道を譲るものだ。 それを思い出してさらに、どうしようもなくなるのだから、本当に自分はどうにかしている。 そして、弟の存在を思い出す。 それって、 「すげぇ、そそられる…。」 「……。」 それはそれは、ずいぶん久しぶりに兄の眉間のしわがふっと消えた瞬間だった。
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