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始まり
気がつくと隣にはスーツ姿の男が立っていて、
「鈴木でよろしく。」
と手を差し出してきた。
ボクは迷いながらその手を取り
「カゲオです。」
とだけ名乗ると、鈴木は少し驚いた顔をしたけど、
「神様がいらっしゃるから。」
とだけ言い、黙り込んだ。
ボクは辺りを見回すと、真っ黒な所だと気がついた。天井も壁もすべてが黒でできた、趣味の悪いへやだった。
何でこんな所にいるのだろうかと考えていると、扉が開いて一人の老人が入ってきた。老人が入ってくると鈴木は手を合わせお辞儀をした。まるで神様にでも祈るように。そんなことを考えていたボクに鈴木が小さな声で「早く祈れ。」
と急かしてきた。意味が分からずただ老人を見ていると 、
「よい、まだ状況がつかめとらんじゃろうからな。顔を上げよ。」
落ち着いた声で老人が促すと鈴木も顔を上げ老人を見た。
老人は微笑みながらボクに向かって
「カゲオか名を覚えておるらしいの。よし、カゲオ、そなたは死んでしもうた。そして今から選択をせねばならん。生まれ変わるかという選択じゃ。」
意味が分からないという顔をしているボクに気づいてか、老人は、
「そなたは最後の瞬間を覚えているようじゃが?」
最後の瞬間という言葉を聞き、ボクの頭には、『人の悲鳴や泣き声がこだまする中で、見たことのとない男に刺されて倒れる』場面が浮かび上がった。ボクは誰かに殺されたのか?そういう思いとは別の感情も心にあることに気付く、何で『良かった』と思ったのだろう。
そんなボクを見て、老人は大きく頷くと、
「カゲオ、選択はなしじゃ。神として生きつづけよ。鈴木よ、しっかりと育ててやれ。」
そう言うと、老人はボクの頭を軽く撫で部屋から出て行った。
老人の言葉の意味が分からず、呆然としているボクに鈴木は
「改めてよろしく、死神の鈴木です。今から君もオレの部下だから。」
こうして、訳も分からないうちにボクは死んだ事実を知らされて、死神になった。
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