その日の夜

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「わかってるって。ただ、良いな〜っていう話」 「もう……」 「それだったら、今度屋敷に来るっていう、旦那様の2番目のご子息の方が良くない? お金ならありそうだよ〜」 エクレールはギクリとして、濯いでいた皿を取り落としそうになる。危うく割っていたら、減給されるところだった。 「そ、そうかな〜?」 内心では動揺しながら、エクレールは笑って誤魔化した。まさか、その2番目のご子息が、今日新しくやってきた使用人だとは言えない。 それから、ソフィアとたわいない話をしながら、エクレールは皿を洗った。洗い終わるかという時に、先輩メイドの1人が申し訳なさそうにやってきたのだった。 「誰か物置に行って、今晩使う分の薪を持ってきてくれない? 執事達で手の空いている人がいないのよ」 先輩メイドによると、晩餐会の準備に気を取られて、使用人達が使う分の薪を補充するのを忘れていたらしい。執事達は男手が必要な会場の設営や当日の段取りの確認でそれどころではないとの事だった。 「それなら、私が行きますよ」 「エクレールが行くなら私も!」 エクレールに続いてソフィアも名乗り出てくれた。エクレールが古びたタオルで手ーー水仕事が多くて、あかぎれが増えてきた。を拭いていると、「あっ! いたいた!」とレジーナもやってきたのだった。 「今晩の浴室の準備をしたのってソフィアよね? お湯の補充がされていなかったって、アンリーネさんが怒っていたわよ」 「あれ、そうだった……?」 「アンリーネさんがソフィアを探して来いって。きっと、お説教ね」 エクレールは肩を落としたソフィアを気の毒に思った。アンリーネの接客は長いのだ。特に、今日の様に不機嫌な時は。 「ごめん。エクレール! 手伝えなくて!」 「いいよ。ソフィア。私だけでも大丈夫!」 そうして、レジーナ達に連れられてアンリーネの元に向かうソフィアを見送ると、エクレールは外套を着て、物置へと向かったのだった。
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