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その日の夜
「ねぇ。エクレール!」
ルカの秘密を知った夜、エクレールが使用人達の夕飯に使用された食器を洗っていると、ソフィアに声を掛けられた。
「どうしたの?」
「あのルカって子がどういう子か気になって……って、洗う手は止めなくていいから!」
仕事が遅いとアンリーネからエクレールが叱責される事を知っているからか、ソフィアは慌てたように、つけ加えたのだった。
エクレールはソフィアの言葉に甘えて、洗いながら答えた。
「どういう子って……。見たままだと思うけど……」
あの後、ルカは何事も無かったかのように、ドインの元に戻って行ったのだった。
エクレールはその態度の変わりように納得がいかず、首を傾げつつも仕事に戻ったが、噂ではルカはかなり優秀なようだった。
(貴族の子供なのに、掃除や雑用を嫌がらないどころか、上手なんてね)
ルカは先輩の使用人から教えられると、すんなりと仕事をこなしてしまったらしい。これには、仕事を教えた先輩の使用人だけではなく、周囲も驚いたらしい。
「ほら。ルカって、顔が綺麗でしょ。仕事も出来るし、付き合ったり、結婚したりする相手にはもってこいじゃない?」
「付き合うって……。私達は結婚したら、仕事を辞めざるをえなくなるんだよ」
明確に決まっているわけではないが、使用人同士が結婚した場合、多くはメイドが仕事を辞めて、相手の家庭に入る事が多かった。
男性の使用人は仕事が忙しく、必要であれば主人に従ってどこまでもお供せねばならない。特に使用人の中でも、高い地位にいる使用人程、それが顕著であった。
その為、家庭の時間を持てず、すれ違った生活を送らなければならないとの事で、メイドが仕事を辞めて、相手の家庭に入る事が多く、またすれ違いがちの為、子供が出来ないまま一生を終える事も少なくなかった。
ドインやアンリーネのように、仕事だけでなく、家庭も子育ても両立できる使用人夫婦はかなり珍しいのであった。
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