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知ってしまった秘密
エクレールはルカを連れて屋敷内を案内した。エクレールが話しかけても、ルカは時折こくりと頷くだけで、話が全く盛り上がらなかった。
やがて、旦那様の部屋前にやってきた。すると、丁度、出掛けるところだったのか、身支度を整えた旦那様が部屋から出てきたところだった。
「旦那様」
エクレールは通例通りに、壁に背をつけて、頭を下げた。お辞儀は九十度。これも指導された通りだ。
一つ誤算だったのはーー、
「ルカ!貴方も頭を下げて!」
エクレールはルカの肘をついて、小声で急かした。しかし、ルカは旦那様を睨みつけたまま微動だにしなかったのだった。
エクレールの声に反応したのは、ルカではなく旦那様であった。
「ルカ? なぜ、お前がその名前を名乗っている?」
エクレールの言葉を聞いた旦那様が、眉を寄せてルカを睨み返した。
一触即発の空気を察したエクレールが、口を開こうとしたその時。
「父上」
ルカが旦那様に向かって声を掛けたのだった。
「このご説明は必ず……必ずします。今は……晩餐会までは、このままでいさせて下さい」
お願いします。と頭を下げたルカの姿を、旦那様は鼻で笑った。
「親子揃って、ここまで愚かだったとはな……」
旦那様は呟くと、そのまま去って行ったのだった。そこに慌てた様子で、ドインさんがやってきた。
「旦那様! 迎えに行くまで、部屋に居て欲しいと……」
「遅い。先に朝食の席に行く」
「しかし、まだ奥様の用意が……」
「くどい!」
そうして、ドインさんと旦那様は、そのまま朝食が用意されている食堂に向かった。
「い、今のは……?」
エクレールがオロオロしていると、頭を上げたルカに睨まれたのだった。
「今の話、聞いていたよね?」
エクレールはルカの怒気にすくみあがって、壁に背をぶつけたのだった。
そのまま、エクレールがコクコクと何度も頷いていると、ルカが迫ってきて、頭を挟んで壁に両手をつけたのだった。
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