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それはいつも通りの光景だった。
正確に言うといつも通りになってしまった光景だった。
エメラルドを連想させる緑髪の小さな少女が、その身体に不釣り合いなほど大きな椅子に腰をかけていた。
それはおとぎ話によく出てくる王様の椅子だった。
装飾が施されすぎて美しさを通りこし、悪趣味と言えるほどに豪華絢爛と光輝く。
そこへ憮然と腰を下ろす少女の名はドロシー。
竜巻に襲われて異世界からやってきた哀れな少女もとい侵略者である。
その椅子の背後にはパーティーである案山子が、左右にはブリキのきこり、ライオンが静かに腰を落としている。
ドロシーは目前に膝をつき頭を垂れるフードを被った男を、冷徹な目で見下ろしながら口を開いた。
「ねぇ、オズ」
「は、はい。何でしょうかドロシー様」
男の名はオズ。かつてこの国で最も強大な力を誇る魔法使いと称された男だが……今やこの様である。
己より二周りは小さいであろう少女に頭を下げる所まで堕ちてしまった。
当然、オズ本人は内心穏やかでない。
屈辱のあまり、ストレスで髪が真っ白になってしまった。
それほどのストレスを受けながらも、オズはドロシーの言葉を待った。
「ハロウィンをやるわ」
それはオズにとって聞き覚えのない単語だった。
「……ハロウィンとは?」
「……ハロウィンも知らないの?あなた、私より数百年の時を生きているのに……よほど無駄な生涯を送っていたのね」
はぁと憂う溜息。その視線は憐れみと侮蔑だけが込められていた。
ーーうわ、もうこの子はたいてやりたい!
オズはこめかみをヒクヒクさせる。
「申し訳ありません。何せこの国では存在しない単語でございましたから」
内心とは裏腹にとても丁寧な対応。オズは知っているのだ。
ドロシーに逆らったら殺される。
絢爛と輝く椅子のすぐそばに置かれた魔力を込められたピストルが、火を吹くことになるだろう。
いまやここエメラルド・シティは、ドロシーの恐怖政治が敷かれていた。
「カッカカカ!なぁなぁドロシー。あの馬鹿の脳みそでいいからさぁ。俺にくれよぉ」
「ダメよ案山子。あなたにはもっと賢い男の脳を詰めましょう」
へんてこりんな笑い声をあげたのは案山子だ。
つぎはぎだらけの身体からは藁が漏れ出している部分が多く、動くたびにかさかさと嫌な音がする。
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