住人達のハロウィン風味~ピストルを添えて~

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そしてオズが何か言うよりも早く、かさかさキィキィと不吉な音を立てて案山子とブリキもこの場から去って行った。 ーー最悪な拷問コンビが誕生しちゃった!! 殺してくれと泣き叫ぶまで身体と心を確実に痛ぶり殺される。 そんな未来が簡単に想像出来てしまう現状に、背筋が凍り冷や汗が止まらなくなる。 「さぁ、いつまでここにいるつもり?さっさと準備にかかりなさい」 オズはまるで逃げ出すように女王の間を後にした。 * 「あー、ヤバイ。これマジで僕殺されちゃうよ……」 オズは門塔の最上部で夜風に当たりながら、憂鬱一色に染まっていた。 「本を読んでみたはいいさ。大体の内容は分かったよ。子供たちが仮装して、大人たちの元へトリックオアトリートと叫んでお菓子を要求する。秋の収穫を祝うなんて建前に過ぎない行事だ。けど困ったことに……」 オズは本の表紙をなぞりながら、 「エメラルド・シティに子供なんていないよ……!仮装する子供たちがいない時点で、これもう詰んでるじゃないか。僕を死刑にするための大義名分なんじゃないだろうね……」 ストレスで真っ白になった髪の毛が、夜の月明かりに照らされる。 憂うその表情と、歳に反する若さを秘薬で得た整った美形。 乙女が一目見れば恋心を抱かせるだろう。 しかし、彼を見つめるのはドロシーが去り際に投げてよこしたジャックランタンだけだった。 「どうしよう。ドロシーはきっと仮装した子供たちのパレードをみたいに違いない。そりゃあさぞ楽しめる行事だろうさ。背の低い大人と腰の曲がったおじいさんとおばあさんにやらせるか?いや、それじゃあ望みには叶わない。うーん、どうしたものか。飾り付けなんかはどうにかなりそうなのに……」 はぁと深くため息。このままでは確実に殺されてしまう。 それを回避する方法は全く思いつかない。 「はぁ。夜空は何も変わらず綺麗だというのに、地上は随分と変わってしまった」 上をみれば星々が煌々と瞬く。 ドロシーが座る悪趣味な椅子とは違い、明るく光るが何処か控えめでもあり、夜空全体で一つの闇夜のカーテンのように見えた。 それが少しだけオズの心を和らげた。 オズは部屋から持ち出してきた望遠鏡を覗く。最近は天体観測が趣味なのだ。 同じく持参した天球儀で星座や恒星を探す。
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