第一章

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笑顔で走ってくる男の子に笑みがこぼれた。 「お前、またここに来たのか」 「美しいおねえ様に会いに」 「馬鹿」 へへ、と笑った彼は大きなお目目で、私の手元にある小さな赤い実を見つめた。 「それって野いちご?」 「ああ、美味しそうだろ」 川から汲んできた透明な輝く水。 それでつぶつぶした艶やかな実を洗って、男の子に渡す。 こちらを見上げた顔に頷けば、少年は一口でパクリと食べた。 甘酸っぱさに口を曲げて声にならない声をあげる。 「美味しい!」 なんだその顔。 歯を見せて笑う姿が可笑しくって、ついつられて笑ってしまった。 毛先がはねた茶色の短髪は光を浴びて輝いた。 「綺麗な色」 「え…」 一瞬、心の中を読まれたのかと思って変な声をあげてしまった。 「おねーさんの髪」 真っ直ぐな瞳と目が合い、怖くなった。 逸らそうにも、それを許さない視線は息苦しくて辛い。 「綺麗なんかじゃないよ。私の髪は。」 なにも知らないくせに。 曖昧に微笑んで野いちごを口に押し込めた。 酸っぱい。 少年は不思議そうな顔で覗き込んで、私の手から野いちごを取った。 ーー私が化け物だとわかったら。 もし知ってしまったら、少年はきっとみんなと同じ眼で私を睨み付けるんだ。 だから私は誰も信じない。 誰も、愛さない。 彼が死んだあの日、そう決めたんだ。 「甘くて美味しいな」 私は笑った。
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