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笑顔で走ってくる男の子に笑みがこぼれた。
「お前、またここに来たのか」
「美しいおねえ様に会いに」
「馬鹿」
へへ、と笑った彼は大きなお目目で、私の手元にある小さな赤い実を見つめた。
「それって野いちご?」
「ああ、美味しそうだろ」
川から汲んできた透明な輝く水。
それでつぶつぶした艶やかな実を洗って、男の子に渡す。
こちらを見上げた顔に頷けば、少年は一口でパクリと食べた。
甘酸っぱさに口を曲げて声にならない声をあげる。
「美味しい!」
なんだその顔。
歯を見せて笑う姿が可笑しくって、ついつられて笑ってしまった。
毛先がはねた茶色の短髪は光を浴びて輝いた。
「綺麗な色」
「え…」
一瞬、心の中を読まれたのかと思って変な声をあげてしまった。
「おねーさんの髪」
真っ直ぐな瞳と目が合い、怖くなった。
逸らそうにも、それを許さない視線は息苦しくて辛い。
「綺麗なんかじゃないよ。私の髪は。」
なにも知らないくせに。
曖昧に微笑んで野いちごを口に押し込めた。
酸っぱい。
少年は不思議そうな顔で覗き込んで、私の手から野いちごを取った。
ーー私が化け物だとわかったら。
もし知ってしまったら、少年はきっとみんなと同じ眼で私を睨み付けるんだ。
だから私は誰も信じない。
誰も、愛さない。
彼が死んだあの日、そう決めたんだ。
「甘くて美味しいな」
私は笑った。
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