第5章 再び届いたメール

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 ピアノの音に混じるように、再び俺の携帯に着信音が響いたのだ。  思わず携帯を取り出し、本文を確認する。  君は本当に人がいいね。まだクラスメイトを殺すための武器を持っていないんだ。君にこれをあげるよ。ピアノのイスのところをみてごらん。  震える足を引きずり、ピアノのところまで行くと、そこには鞘のついた短剣が置いてあったのだ。  俺はそれを手に取り、鞘を抜いてみた。するとその剣は赤く染まっていた。俺の手から剣が滑り落ち、高い音を辺りに響かせる。  部屋を出ようとする俺の手を、誰かが再びつかむ。  この誰かの血の付いたナイフを持っていかない限り、帰さないつもりなのだろうか。  俺はナイフを鞘に納め、鞄の中に入れる。  再び出口に行こうとするが、今度は誰も俺を制する者はいなかった。  扉を開けると、谷口と野々村の顔が飛び込んできた。  谷口が俺の腹部に抱き付く。 「谷口?」 「よかった。上野君がいなくなったらどうしようかと思った」  彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。  彼女は俺のことを本気で心配してくれていたのだろうか。  ただ、特別に思われているとは感がない。優しいから、野々村、三原が同じ状況になったとしても心配してくれるんだろうな。  だが、その自分の考えに違和感がある。  その違和感の理由が分からなかった。  俺が外に出た途端、再びピアノの音が辺りを包み込んだ。 「誰かいるのか?」 「いや、いないよ。理科室と同じだと思う」  三原は怪訝そうに俺と音楽室を見ている。  俺達は理科室を離れ、階段をあがる。だが、まだピアノの音はまだ静寂の空間を音楽で彩り続ける。  携帯を確認すると、残り二十五分を指していた。これから三階を一通り確認はできるだろう。 そして、何か根本的な勘違いがない限り、出口にはたどり着くはずだ。だが、いまだに耳に届くピアノの音色が焦燥感をかきたてる。それに一歩ずつ順調に進んでいると感じる分、見落としがあるように感じられてならない。 ちょうど三階についたとき、音楽室の音楽がぴたりとやむ。俺達の携帯が再び着信音を奏でる。
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