胸襟

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「ただいま。…ほい。」 「あ、ありがとう。」 「ったく。親しき仲にもナンとやらだぞ。大人しく座ってカメラ構えてろ。」 「分かりましたよ。…綾瀬、目線こっち。」 さっきからニコリともしない加納は、ファインダーを覗いて握り拳を長野さんの顔の隣に作り、そこへ視線を向けるとフラッシュが光る。 向けるより向けられるカメラに大分慣れてきた。 …だけど、身体と心が暴れて仕方ない。 「…さっきの続きですが、先輩たちはもういいんです。大丈夫ですから。 出版社辞めてまで追いかけた夢ですが、今は満足しています。」 「…どうかな。」 「加納!…お前は口を挟むな。」 「へいへい。」 出版社を辞めるとき、加納は私の写真が好きだと言ってくれた。 精進することを誓ったのに、カメラから離れたことに納得いってないんだ。 (ゴメン加納…ゴメン) 心で何度も謝りながら、長野さんに顔を向けた。 「…プライベートで時間が空いたら連絡くれ。一度ゆっくり話したい。…お前は娘だからな。」 「……!…はい!ぜひ!!」 "娘"と言われて、喜んでる自分がいた。 今もまだ、大事に思ってくれてるんだ。 「あ、そうだ。そろそろ本題に入ろうか。いろいろ突っ込んで聞くが、答えられる範囲で構わない。」 「はい。」 「ボイレコ入れるぞ。」 「はい。」 バックダンサーになった切っ掛け、カメラマンとしての活動、辞めた切っ掛け等、昔のことから質問が始まった。 時おり辛そうな表情を浮かべる。 それもそのはず。 長野さんはすべてを知っているから。 インタビュアーとして、読者が求める質問。 だが、私のことを考えれば苦しい…と、その表情が物語る。 「…長野さん。」 「ん?」 「私は大丈夫ですから。どんどん質問してください。」 笑顔で大丈夫だと言い聞かせる習慣。 これで自分も相手も大丈夫。
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