第1章

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 彼が往来に出てきた時には、まだ誰もその光を 目の当たりにする事が無かった。彼は自身を、 民の穢れから一時身を退かれてから、一人づつ 近寄っては、その光をお与えになった。  ある人は彼の翳す手の平に暖かみを感じて、 その傷が癒されていく事に、驚きを隠せなかった。 また別のある人は三日間もの間、何も食べる事が 出来なかった。その病の為に仕事も無かった。  絶望しか感じない明日へ、ただ道端に座って、 ただ陽が暮れるの待つだけであったが、光の彼が その座り込む人に、言葉をかけた。  彼の言葉は座り込む人の病を治し、活力を与え 絶望の幕をひくように、光に満ちていた。  静かに彼は光を、分けあうように労わった。 その眼差しは、優しさに溢れた澄んだ瞳である。  傷ついた人癒えぬ人、目の前が闇である人、 こうした人々に、順々に近づいては、励まし 希望と勇気を与え、傷や疲れを癒していた。  夕暮れになる頃に、ある女性が彼の姿を見て、 その光に満ちた事について訊ねた。 「貴方様は、どのような方なのですか?」  光を纏った彼は、女性に落ち着くよう促して、 「何も心配する事はありません。この光は 神が私を遣わせて下さったのです。つまり、 私が纏う光もまた、貴女の光となるでしょう。」  思わず女性は跪いて、今晩は私の家においで 下さい。そして共に食事をなさって下さい。 そのように願い出た。  その夜、彼女の家に多くの人達がやってきて 光ある彼に葡萄酒を届けたり、祈ったりした。 だが彼は光は弱き人々、誰にも神がお与えに、 なるので、今夜は何も心配せずに眠りましょう。  このように仰られて、光ある彼も眠った。  しばらくして、光ある彼は他の町にも行って 声をかけて体を擦ってやり、痛みを安らぎに 癒してまわった。次第に方々の町で光の彼の噂が 持ちきりになっていた。光ある彼の行く場所は、 黄金の足が訪れたと歓喜した。  最も荒廃した町では、薬もなく食べる所か、 井戸の水さえ枯れてしまいそうだった。 この辺境の地では、彼の光について噂する人が まだ居なかったのである。  光を纏って彼は、いつも通り静かに井戸に寄り 手を翳そうとしたとき、病を患った老婆が止めた。 それを見て光の彼は言葉をかけた。 「何を心配しているのですか。貴女にも奇麗な水を 汲んであげましょう。病も癒えるのです。」 「旅のお方、どうかその井戸に手を触れないで
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