第1章

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くださいませ。どうかお願いしますから。」 「何も畏れなくても大丈夫です。この光は神が 私をお遣わしになった、その為の光なのです。」 「そうではございません。」 「とは、どういう意味ですか。」 「じきに解ります。ここに居れば私達は水を得、 癒される事になるからです。すぐに来られます。」  すると、誇りっぽい土風の中から、熱く火の如く 逞しい大男が、ゆっくりと進んできた。そして、 町の道端に佇む人、寺院の前で何もかも諦めつつも 乞うように祈る人達に、声をかけては励まし、その 強さを注ぎ込む事が、使命であるかのように癒した。  井戸まで来て、その筋肉で思い切り桶で水を汲み その桶の水を抱き、火のように体が赤くなると、 桶の水だけではなく、井戸の水全部が澄みきった 清い水になった。  それから歩く事の適わぬ人や、病の人、絶望の人 老いた人と、順々に水を配ってまわっては、 力強い励ましと、諦めぬようにと木の実などを 一緒に渡して行った。  光を纏った彼は、しばらくの間は寺院の影でその 火の男の様子を見ていた。彼の行いをつぶさに。 先程の老婆も、火のような男から僅かだが奇麗な実 そして汲んだ水を受け取った。  火の男は慕われていたし、見返りは求めなかったが 神に対して祈る事、神の与えてくださった希望を、 絶望だと思い込まぬようにする事。そのように言った。  そこで光を纏った彼は、火の男に歩みって訪ねた。 「貴方はどのような方なのですか。」 「旅のお方ですかな。ワタシは神に火を頂いた者で。 このようにして、神が用意して下さった実りを 集めて水を清くして、配っております。  傷や病を癒す為に、神からお預かりした火を使い 誰もが希望をとりもどすためにの、手伝いをする為に 遣わされたからです。」  これを聞いて、光を纏った彼は大変に驚いた。 そこで彼は光を顕にして、自分が神の遣いであって、 この光がその証なのだといわれた。その上で、 火の男に、自分の弟子として旅をしないかと言った。  だがそれを聞くと、火の男は笑ってかぶりを振って アナタこそ、ワタシの弟子となって神の僕の手伝いを するべきではないだろうか。と言って話しだした。 「ワタシもまた、ずっとこの地にいた訳ではなく、 長く旅をしてきて、この町はとりわけ酷い有様なので 火の力を注いでいる。故に次第に好転している。」
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