第1章

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「この惨状が好転している証と、貴方はいうのですか 貴方の行いは立派だが、神の遣いとはもっと心の糧に 近いもので、貴方が前にしている光こそがそれです。」 「それは、本当か。それではアナタが癒してきた町は アナタが立ち去った後は、どうなっているのか。 神に遣わされたのなら、どの町でいま何が起きている そういった事までが判るというのか。」 「それでは聞きますが。貴方は井戸の水だけを清くし この町の野や畑に、雨を降らせて希望を心に光らせる そのような行為を行わないのは、何故ですか。」  二人は澄んだ瞳と燃えるような瞳で、笑いあって お互いが神の遣いならば、悪魔に打ち勝てるはずと 共に苦難の山に登った。七日七晩の悪魔の誘惑に のせられないように、過ごす事になった。  こうして神の遣いとして光を纏う彼と、神の遣いの 火を抱く男は最後の誘惑を退けて、悪魔を祓った。  その時、以前から雨がほとんど降らなかったが、 この地方と、その隣の町、そのまた別の町に恵みの 雨が降り出した。光ある彼は言った。 「ご覧なさい。これこそ私が神が遣わされた恵みの 証に他なりません。澄んだ光に満ちた雨です。」 「いや、これはワタシに熱き情熱を注いで下さった 神の恵みですな。全ての悪魔を火で祓ったから。」  言い合いをしながら町へ二人は降りて行った。 そこには、一人の女性が跪いて雨を乞い祈っていた。 町の誰もが彼女を、水を育む神の巫女に違いない。 そのように言っていた。  光ある彼は、町の人に訊ねた。 「誰が彼女が、神の遣いであると言いましたか。」 「彼女、ご自身がそのように。」  火のある男は、祈り終わった女性に訊ねた。 「アナタも神の遣いとして、旅をしおるのか。」 「はい。先々で全ての方と土と畑に、潤いを。」 「しかし、私こそが神の遣われし光ある心です。」 「そうではなく、ワタシが悪魔に打ち勝つ火を 神の遣いとして預かっている。」  三人がそれぞれに神の遣いであり、その清き 光や火、水を象徴して、とりまきの群集は、 誰が神の遣わされた方であるのか、困り果てた。  このまま言い合えば、明日の朝までも 結論が出てこないような気がした。 三人ともが、多くの慈愛を持って救いながらも 祈ってきたのを誰もが知っていた。  その事が庶民の年収のような、俗世的なものと 無縁であるのは明らかだったからだ。
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