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* * *
「それで、そのまま緑郎さんはロスに行っちゃったの?」
「そう」
「仲直りしないまま?」
「発つ前に一応連絡は来たけど…」
駅前のコーヒーショップは平日の夕方でも当たり前のように満席で、席の感覚も狭くてひどく窮屈だった。
ガラス張りの店舗のカウンター席にユミと私は隣り合って座って、ガラスの向こう側を忙しなく行き交う人々を何とはなしに眺めていた。
緑郎くんから携帯に‘これから行ってきます’と、味気のないテキストのメッセージが入ったのは昨日、私がバイト中のときのことだった。
先々週、緑郎くんの家で喧嘩をして、これ以上いてもろくなことにならないと判断した私は、緑郎くんが止めるのも聞かずに彼の家をあとにした。
けれどその後の着信を何回か無視した後、結局電話を取って。
『ごめん』という言葉をくれた緑郎くんに、私は『もういい』と返した。
けれどそこから気づけば一週間連絡を取らず、ついには緑郎くんはそのままLAに出発してしまったのだ。
いい加減、愛想をつかされてしまったのかもしれないと、不安が澱のようになって胸の底に溜まっている。
もともと私は緑郎くんに見合う人間じゃないんだから。
「メールでも入れておけば?向こうでも見られるんでしょう?」
ユミにそう言われて、私は曖昧に頷いた。
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