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「やっぱり仕事変えようかな。こんなにしょっちゅう遅くなるようじゃ陸が可哀想だもの」
キッチンに戻ってきた姉は椅子にかけるなり麦茶を飲み干して、もう一杯いれて、とグラスを寄越した。
姉は高校卒業と同時に今の仕事に就いた。
慢性的な人手不足のせいで、月末以外にも遅くまで残業することがよくある。
義兄は居酒屋をやっていて昼夜逆転した生活を送っているし、だからこうして母と私とで陸を預かることが多い。
「仕事変えるって、何かあてはあるの?」
「あったらとっくに変えてるわよ。たまに調べてみても、いいところなくてさ。せめて何か資格でもあればなあ」
姉はそう言うと深いため息を吐いて、自分の肩をとんとんと叩いた。
妹の私からしても姉は美人の部類に入ると思う。
けれど今日は本当に疲れているようでいつもよりもぐっと年上に見えた。
これなら緑郎くんの方がずっと若く見えるな、と姉には絶対に言えないようなことを思う。
「やめてよ、それ。オバサンみたい」
「うるさいな、仕方ないでしょ。疲れたんだから」
姉はそう言って私をじろりと睨むと、今度は目を閉じて、指でこめかみを押しはじめた。
「園もさ、いつまでも若いわけじゃないんだから。バイトじゃなくて仕事見つけな?お母さんも心配してたよ」
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