彼の不在に

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「そんなこと、言われなくてもわかってる」 姉のその言葉は全くもって正しくて、だからこそ耳が痛くなる。 誰よりもそれをわかっていて、焦っているのは私自身なのに。 どんな仕事でもいいと思えば、見つけるのはそれほど難しくないのかもしれない。 実際求人サイトを見れば、仕事は山ほどある。 けれどディスプレイをスクロールする私の指は、営業とか企画系とか販売とか、そんな文字を通過してしまうし、 駅徒歩5分以内とかフレックスタイム制とか髪型自由なんていう、わかりやすく表示された色とりどりのアイコンも、私の目をひきつける役割りは果たさなかった。 お喋りをする気が失せてしまった私は口を閉ざして、姉からソファーで眠る陸に視線を移した。 起きている間の一丁前な口をきく姿が嘘みたいに、無垢で可愛い寝顔。 呼吸に合わせて静かに上下するお腹を見ていると、こちらまで眠くなってくるような気がする。 思わずそれに見入っていると、姉がいつの間にか目を開けてそんな私を見ていた。 「園は保育士とかになれば?昔から子供好きだったじゃない?」
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