彼の不在に

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それでも姉に今こう言われて、なんだか胸のあたりが急にそわそわとし始めた自分がいた。 保育士になるだなんて夢は、目指すことすらせずにとっくに捨ててしまったはずなのに。 あんなのは、それこそ小さな子供がピアノの先生になりたいとか、ケーキ屋さんになりたいとか言うのと同じ類のもので、私はそれほど真剣じゃなかったはずなのに。 「保育士の資格って短大とか出てなくても取れるの?」 それなのに、私は思わず姉にそう訊いていた。 久しぶりに感じるこの浮き立つような感覚を、すぐに消してしまうのがなんだか惜しいような気がして。 姉は自分が言い出したくせに、なぜかそんな私を一瞬意外そうに見つめた。 けれどすぐにしっかり者の長女の顔に戻って、姉なりの愛情を込めて、私をぽんと突き放した。 「私は知らないわよ。自分で調べてごらん。でも短大に行かなくちゃならなくても、園の年ならまだなんとでもなるでしょ」
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