彼の不在に

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* * * 姉が陸を抱えて帰った後、その夜はなかなか眠りにつくことができなかった。 スタンドライトがぼんやりと照らすだけの暗い室内。 携帯のディスプレイをじっと見ていたせいで、目が疲れているのを感じる。 保育士資格については、少し調べてみただけでも色んなことがわかった。 決して実現性の低い話じゃないことも。 だから今日のところはこの辺りにしておこうと目を閉じるのに、妙に気が昂ぶって、眠気がやってくる気配はなかった。 無性に緑郎くんの声が聞きたくなって国際電話をかけようかと考えたけれど、時差のことを考えるのが面倒になってやめた。 代わりにメールの作成画面を開いて、人差し指をその上で走らせる。 緑郎くん。 買い付けは順調ですか。 早く会いたいです。 無事に帰ってきてくれるのを待っているね。 夜中の静けさのせいか、遠く離れた距離のせいか、深く考えずに打った文章はいつもの私らしくなく、ひどく無防備で素直なものだった。 送信をする前に出発前の喧嘩のことを思い出したけれど、あえてそれには触れず、そのまま送ることにした。
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