第一章

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 俺が馴れ馴れしさと唐突さに困惑していると彼女が右手を差し出して握手を求めてきた。俺は少しの間そのまま放っておいたのだが、なかなか右手を引っ込めようとしない。ったく、しょうがねぇなぁ。俺は握手に応じた。  ラン子と名乗る白衣の美女が言う通り、俺が住んでいるこのアパートは学校が借り上げて寮として使われている。だから住人はすべてウチの学校の生徒だ。部屋は全部で六つ、一階と二階にそれぞれ三部屋ずつある。俺は一階の真ん中、102号室に今年の春入居した。築十年。新しくはないがそれほど古びているわけでもない。だが皆このアパートのことを”ボロアパート”と呼ぶ。それは三年ほど前に建った十二階建てのマンションを学校がやはり借り上げて寮として使っており、それと区別するためにあえてこっちを”ボロ”アパートと呼んでいるのだ。  「少し頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」  ラン子という女性が馴れ馴れしくそう声をかけてきた。  「どんなことでしょうか」  「うーん、翔太は何かよそよそしいな。タメなんだから敬語はやめてくれ」  初対面なんだから普通はそうだろ。タメだなんて知らなかったしな。それにあんたが馴れ馴れしいだけだろ。
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