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アピチュたちは行ってしまった。ワカタイは独り、火薬庫に取り残された。
利用された?
それは、そうなのだろう。
だが慣れている。役には、立てた。
まだ役に立てる。力だけはある。戦うなら、出番だ。
自分は馬鹿だから、軽んじられるのは仕方ない。やれることを、やるしかない。
奮い立ってアピチュたちを追ったが、〝反乱〟は、ワカタイの想像していたようなものではなかった。爆薬の設置は済んでいた。
大爆発を起こし、坑道を塞ぎ、アウカ人たちを閉じ込める。それが彼女たちの計画だった。彼女の指揮下でない奴隷は、アウカ人と共に犠牲になる。
轟音。思わず耳を塞いだ。地面が揺れる。方々で天井が崩れ始めた。アピチュたちは風のように去っていった。
悲鳴と地鳴りの中で、アウカ人と奴隷たちが雪崩のように出口へ駆けていく。
とにかく、ここにいては危ない。ワカタイも走ったが、足は遅い。何度も突き飛ばされ、追い抜かれた。
後ろから知っている声がした。振り返ると、ワカタイの班の者たちだった。
ちょうどその時、頭上の岩が崩れ落ちてきた。ワカタイは咄嗟に、その岩を支えた。道が塞がれるのは防げた。だがワカタイも身動きが取れない。
頭巾は取れていた。ワカタイの顔は見えている。先頭の者が気付いた。しかし、驚きながらも、立ち止まりはせず、駆け抜けていった。涙が溢れた。
何でもいい。何か言葉を。
祈るような気持ちで岩を支え続けるワカタイの横を、奴隷たちは遂に無言で通過していった。
胸の奥が虚空になると共に、腕にも限界が来ていた。何と無意味な人生だったろう。
諦めかけた時、突然岩が軽くなったかと思うと、背中を蹴られ、地面に倒れた。一人の奴隷が、ワカタイに代わって岩を支えていた。
「短い別れだったな。だがこれでまたお別れだ」
奴隷ではない。ビセンテ。
「急げ。俺はお前ほど力はない」
「ありがとう。俺は生きる」
叫んだ自分に、ワカタイは驚いていた。今し方、班の者たちから聞きたかった言葉だった。
「俺たちは仲間だ。あなたを忘れない」
ビセンテにはもう、声を発する余裕はないようだった。口もとが微かに笑った。
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