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「ごめんね、パルタ」
朝食を終えて、父が騎士団に出かけると、母マメイが言った。武術の稽古を辛そうにしているパルタに、通信使の仕事を与えたのがこの母である。
「お父様も意地悪で言ってるんじゃないのよ。外はもう本当に危ないから」
「わかってるよ」
パルタは不平を隠そうとしなかった。
いつでも優しい母に対して、パルタは遠慮をしない。父に対して溜めた鬱憤を母にぶつけているようなものだった。それでもマメイが怒ることはない。不満げな顔すら、パルタは見たことがなかった。
「戦うって、誰と?」
「王様たち、らしいけどね」
「なんで戦うの?」
「今の王様に任せておいたら、アウカ人たちのいいようにされちゃうからだって」
パルタにとっては、王の方が正しいように思えた。噂でしか知らないが、アウカ人は恐ろしく強いのだという。それに、実際アウカ人たちが来てからも暮らし向きが変わった感じはしない。ならば無駄に争うより、客として迎え入れた方がずっといい。
「だって、アウカ人たちが襲ってきてるわけじゃないでしょ?」
「そうね」
「何にもならないよ、戦いなんかしたって。痛いだけだよ」
もう外には出られないのだと思うと、余計に走りたかった。土を蹴りたい。当たってくる風を吸いたい。
走るのは楽しいし、人に喜ばれて駄賃も貰える。戦いがそれより大事なものだと、パルタにはどうしても思えなかった。
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