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月曜、午前八時半。
「おはよう、中野君。おはよう、高野君」
朝の光が差し込む海事の大部屋の、遠くの入口から軽やかに聞こえてくる凛とした声。
わずかに視線を動かすと、笑顔で挨拶を交わす姿が遠くに見えた。
「お、亀岡さんだ。
やっと目が覚めてきたぞ」
「今頃ですか」
米州部長のオヤジ発言を隣の羽鳥課長が笑っている。
人のまばらな朝でなく、昼間の百人をはるか越える人間がひしめく海事の広い大部屋でも、彼女が入って来るとすぐに分かる。
持って生まれた華と言うのだろうか。
女性らしいラインを描く、
すらりとしなやかな身体。
蠱惑的でありながら、
知性と品性をたたえた大きな瞳。
外見だけではない。
数ヶ国語を操り、上司顔負けの判断力で難題も切り崩す、誰もが認める海事の女王様。
完璧という形容詞がこれほどしっくりくる女はいないと思う。
そして、これほど内面を見せない女も。
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