第1章

3/16
前へ
/16ページ
次へ
*** 月曜、午前八時半。 「おはよう、中野君。おはよう、高野君」 朝の光が差し込む海事の大部屋の、遠くの入口から軽やかに聞こえてくる凛とした声。 わずかに視線を動かすと、笑顔で挨拶を交わす姿が遠くに見えた。 「お、亀岡さんだ。 やっと目が覚めてきたぞ」 「今頃ですか」 米州部長のオヤジ発言を隣の羽鳥課長が笑っている。 人のまばらな朝でなく、昼間の百人をはるか越える人間がひしめく海事の広い大部屋でも、彼女が入って来るとすぐに分かる。 持って生まれた華と言うのだろうか。 女性らしいラインを描く、 すらりとしなやかな身体。 蠱惑的でありながら、 知性と品性をたたえた大きな瞳。 外見だけではない。 数ヶ国語を操り、上司顔負けの判断力で難題も切り崩す、誰もが認める海事の女王様。 完璧という形容詞がこれほどしっくりくる女はいないと思う。 そして、これほど内面を見せない女も。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10529人が本棚に入れています
本棚に追加