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「ご、ごめんなさい」
吃りながら硬貨を拾い始めた彼女を手伝おうと俺も屈んで腕を伸ばした時、驚いたように顔を上げた彼女と目が合った。
その瞬間、動けなくなった。
普段より無防備な目に、あの夜見た女の表情がちらりと見えた気がしたからだ。
男の腕の中で、
こんな表情を見せるんだと。
あの夜、最高だった体の相性より
俺にはその表情が強烈だった。
強烈に惹かれながら、怖かった。
忘れられなくなることが。
一夜限りの線引きを越えて、過去の男達に嫉妬してしまう自分が。
固まった腕を無理矢理動かし、拾った硬貨を彼女の手に落とす。
「…どうぞ」
「あ、あり、がとう」
せっかく残像を振り切ったのに、やめろと頭の中で警報が鳴っているのに。
その時ふと見えたものに、また俺の加虐心に火がついた。
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