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「……」
じっと睨み付けてくる女王様を無視して、黙ってコーヒーのプルタブを開ける。
答える気はない。
あの日“彼女”と別れたことは。
あの日、亀岡先輩を駅で下ろした後、俺は約束通り彼女といつも通りに過ごすつもりだった。
彼女が観たいという映画に付き合い──あまり興味なくほとんど内容は覚えていないけど──、食事の後、彼女の部屋に行った。
そこまではいつも通りだった。
俺は飲み仲間は別として、自分の部屋に彼女を呼ぶことはあまりしない。
それは今の彼女に限らず、これまでも同じだった。
所有意識を持たれたくないし、誰であれ距離を置きたいから。
こういう冷たい性格と、クリスマスやその他、女が好きなイベントに一切反応しないサービス精神の無さで、これまで誰とも長続きしたためしがない。
彼女という名目の、感情抜きのセフレのような扱いだからだろう。
でも今の彼女の知佐は俺と同様あっさりした女で、珍しく半年以上続いていた。
三十才を過ぎても結婚する気のない俺の腹を探ることもしないし、彼女も結婚に焦っている様子はない。
身体も馴染んでいたし、互いに何の不満もなかったはずだった。
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