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電話をする視界の端で、彼女が軽やかな足取りで俺の正面の自席に着くのが見えた。
あの夜とはまるで別人の、いつも通りの彼女だ。
安堵しつつも、微かに苛立つのはなぜだろう?
「もぉーっ、篠田先輩ひどいですぅーっ」
電話を切った途端、耳元で響くけたたましい声でそんな思考を破られた。
振り向くと管理部の、
名前は……よく知らない。
海事女子は人数が多いし新陳代謝が早いから、いちいち他部門の女子まで覚える必要もないのだ。
「三次会、篠田先輩の隣に行こうと思ってたのにぃ」
「ごめんね」
そんな約束をした覚えはないが、愛想笑いを返した。
「二次会のあと、先輩どこ行っちゃったんですかぁー?」
こいつ、やたらに声がデカい。
正面の彼女にも当然聞こえているだろうが、さすが女王様、澄ましかえった笑顔で隣の相原先輩と喋っている。
「急用が出来たから」
「彼女さんからの呼び出しですかぁ?」
「違うよ」
「えー、ウソだぁ!
先輩、彼女いるんでしょ?」
しつこい問答にだんだんウンザリしてきた。
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