第1章

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電話をする視界の端で、彼女が軽やかな足取りで俺の正面の自席に着くのが見えた。 あの夜とはまるで別人の、いつも通りの彼女だ。 安堵しつつも、微かに苛立つのはなぜだろう? 「もぉーっ、篠田先輩ひどいですぅーっ」 電話を切った途端、耳元で響くけたたましい声でそんな思考を破られた。 振り向くと管理部の、 名前は……よく知らない。 海事女子は人数が多いし新陳代謝が早いから、いちいち他部門の女子まで覚える必要もないのだ。 「三次会、篠田先輩の隣に行こうと思ってたのにぃ」 「ごめんね」 そんな約束をした覚えはないが、愛想笑いを返した。 「二次会のあと、先輩どこ行っちゃったんですかぁー?」 こいつ、やたらに声がデカい。 正面の彼女にも当然聞こえているだろうが、さすが女王様、澄ましかえった笑顔で隣の相原先輩と喋っている。 「急用が出来たから」 「彼女さんからの呼び出しですかぁ?」 「違うよ」 「えー、ウソだぁ! 先輩、彼女いるんでしょ?」 しつこい問答にだんだんウンザリしてきた。
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