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“いる”と嘘をつくべきだろう。
一昨日別れたばかりだと正直に言う必要もない。
しかし相手は俺の一瞬の隙を見逃さず、返事を待たずに切り出してきた。
「ご飯ぐらい、いいですよね?」
この子には俺に彼女がいるかいないかなんて、関係ないのだ。
要はモノにできるかできないか。
落とせるか落とせないか、だ。
「いいよ」
「キャー!絶対、約束ですよぉ?」
本気で誘うつもりもなく適当に返すと、相手も別に俺に本気でもないだろうに、喜んだフリで帰って行った。
職場で、わざわざ大声でこんな会話をしてみせるのは、周囲の女子への宣言だ。
ワタシ次はこの男いきますから、と。
彼女達にとってこれは恋愛でなく、就職活動のようなものだろう。
捕獲した中から永久就職先を吟味する。
でも俺は誰にも“就職”される気はない。
チラリと視線を上げると、彼女は財布を手に席を立ち、部屋を出ていくところだ。
高い腰から伸びた、細くしなやかな脚。
あの夜、膝上ではあるもののかなり際どい位置に痕をつけたのに、お構い無しのミニスカートだ。
その余裕に少し苛立ちを覚えて席を立った。
つい二日前、彼女に二度と触れるまい、関わるまいと心に決めたはずなのに。
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