第1章

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“いる”と嘘をつくべきだろう。 一昨日別れたばかりだと正直に言う必要もない。 しかし相手は俺の一瞬の隙を見逃さず、返事を待たずに切り出してきた。 「ご飯ぐらい、いいですよね?」 この子には俺に彼女がいるかいないかなんて、関係ないのだ。 要はモノにできるかできないか。 落とせるか落とせないか、だ。 「いいよ」 「キャー!絶対、約束ですよぉ?」 本気で誘うつもりもなく適当に返すと、相手も別に俺に本気でもないだろうに、喜んだフリで帰って行った。 職場で、わざわざ大声でこんな会話をしてみせるのは、周囲の女子への宣言だ。 ワタシ次はこの男いきますから、と。 彼女達にとってこれは恋愛でなく、就職活動のようなものだろう。 捕獲した中から永久就職先を吟味する。 でも俺は誰にも“就職”される気はない。 チラリと視線を上げると、彼女は財布を手に席を立ち、部屋を出ていくところだ。 高い腰から伸びた、細くしなやかな脚。 あの夜、膝上ではあるもののかなり際どい位置に痕をつけたのに、お構い無しのミニスカートだ。 その余裕に少し苛立ちを覚えて席を立った。 つい二日前、彼女に二度と触れるまい、関わるまいと心に決めたはずなのに。
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