第1章

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大部屋を出るまでに、さっきの管理部の子が俺に気付いて向かってくる気配を見せたので、それとなく迂回して廊下に出た。 女王様は休憩室だろうと見当をつけて入ると、なぜか彼女は部屋のまん中で突っ立っている。 「おはようございます、亀岡先輩」 振り向いた彼女の顔が露骨に凍りついた。 大方予想はしていたのでショックはない。 「…おはよう、篠田君」 ……当然ながら沈黙。 俺は何しに来たんだろう? ただ、彼女を間近に見たかったのかもしれない。 あの朝泣き腫らしていた猫のような大きな瞳にもうその痕跡はなく、少しだけホッとする。 それだけでよかったはずだった。 でも、彼女の頬がさっと赤らんだのを見た途端、無性に苛めたくなってきた。 「買わないんですか?」 「か、買うけど」 「どうぞ、お先に」 あの一件は忘れてくれて構わないはずなのに、澄ましかえった女王様の綻びを見ると、俺の手でもう一度乱してやりたくなった。
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