1:始まりと、マドレーヌ。

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ふと、いつか部室から聞いた “なんかここ、いい匂いすんね” という彼の声を思い出した。 男の子にしてはそこまで低すぎない、心地の良い声で なんとなく、心に残っている。 そして ようやくすべてを拾い終わると 彼はようやく、ベンチに座った。 「すみません、本当に……!!」 「いいよ、拾っただけじゃん。てか、もしかして製菓部?」 「え……?」 「学校で作ったんでしょ、それ。俺いつも家庭科室の前走ってるけど、金曜日はすげーいい匂いするなと思ってた」 「あ……はい!あの、もし良かったら……!!」 勢いで、紙袋の中のマドレーヌを1つ掴んで差し出したものの その瞬間、これはさっき道路に落としたものだと思い出し 今度は慌てて引っ込める。 「こ、これ落としたやつでした……!!ごめんなさい! 今度ちゃんとしたの渡します!お礼で!!」 自分でももはや 何を言っているかよくわからないくらい混乱していた。
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