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ふと、いつか部室から聞いた
“なんかここ、いい匂いすんね”
という彼の声を思い出した。
男の子にしてはそこまで低すぎない、心地の良い声で
なんとなく、心に残っている。
そして
ようやくすべてを拾い終わると
彼はようやく、ベンチに座った。
「すみません、本当に……!!」
「いいよ、拾っただけじゃん。てか、もしかして製菓部?」
「え……?」
「学校で作ったんでしょ、それ。俺いつも家庭科室の前走ってるけど、金曜日はすげーいい匂いするなと思ってた」
「あ……はい!あの、もし良かったら……!!」
勢いで、紙袋の中のマドレーヌを1つ掴んで差し出したものの
その瞬間、これはさっき道路に落としたものだと思い出し
今度は慌てて引っ込める。
「こ、これ落としたやつでした……!!ごめんなさい!
今度ちゃんとしたの渡します!お礼で!!」
自分でももはや
何を言っているかよくわからないくらい混乱していた。
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