第一章

2/4

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
荒涼とした荒野が眼前に広がる。申し訳程度に生えた草は皆枯れ果てている。 鉛色の重く垂れこんだ曇天の空の下、無数の黒い影が蠢いていた。人のような四肢は持っているものの、その容姿はどう見ても人間とは言えなかった。 黒光りした鱗が全身を隙間なく覆い、赤く染まった鋭い目には人とは似ても似つかない縦に伸びた瞳孔がある。粘着質な唾液を鋭く尖った牙に纏わせ、落ち着きなく動かす手には刃のような爪。蝙蝠を彷彿させる一対の翼を背負い、額や側頭部からは湾曲した黒い角が生えている。大きさは小さいものでも三メートルはありそうだ。 下位の魔人。それが彼ら。一体一体が少なくともAランク相当の実力を持っている。そんな化け物が広大な荒野一面に何十、何百といる。ちなみに魔人は高位になればなるほど小さくなりその姿は人間に近づく。 魔人が集う荒野を崖の上から俺達は見つめる。同じ深い青のローブを身体に纏い、風に靡かせる。集団の平均年齢は少なくとも二十後半だろう。俺と白金の髪の少年は十歳くらいの子供とこの集団に似つかわしくない。しかしその顔つきは周りの大人に負けないくらい大人びていた。 その集団から青年が一歩前へ出る。さらりとした金髪を風に遊ばせ、細いフレームの眼鏡をかけた青年。穏やかそうな目に覚悟を孕ませ魔人の群れを見据える。青年が右手を高々と挙げる。周りはそれに合わせローブのフードを深く被る。青年は全員フードを被ったのを確認すると、右手を魔人に向け振り下ろした。 その瞬間、俺達は魔人に向かって飛び出した。 魔人は俺達に気付くや否や魔法をこちらに向け放つ。色取り取りの光線が俺達目がけ直進する。白金の髪の少年はそれらに手を向け不思議な輝きを放つ球体をいくつも生み出しぶつけた。光線は球体に触れると一瞬にして消し飛ぶ。流石、破壊属性の魔法だ。 俺も、と異空間から己の武器を呼び出す。何もなかったはずの空間から出てきたのは漆黒の長刀と純白の短刀。鞘に収まっていない状態で出てきたそれを掴むと一番近くにいた魔人を切り捨てた。固い鱗を難なく切り裂き肉を切断する感触が刀を通じ伝わる。上がる真っ赤な血飛沫をローブの上から浴び、返す刀で別の魔人を斬る。 ああ、これは。なんて懐かしいのだろう。五年前起こったあの戦争。俺が変わった原因ともいえる、出来事…。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加