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・理side
トタトタと木の板を踏む、軽やかな音が近付いてくる。
温かなそれは、俺の膝の上に乗ると丸くなった。
「みゃー」
鈴を振るような鳴き声と共にラクシュミは、くわえていた派手な包みをぽとりと床に落とした。
オレンジと紫と黒の混ざった、この時期ならではの派手なデザインのビニールには、チョコレートが包まれていた。
「サンキュ」
俺はそれを口の中に放り込んで、ラクシュミの背を撫でた。
気持ち良さそうに目を閉じる猫を眺めていると、俺の前に座っている脆弱な体の男が唇をわなわなさせながら振り返った。
「伊藤君……」
「何ですか先生」
「今その……、そう。それ! それには何が入っていたのか教えてくれないか?」
「はあ?」
細い指先はラクシュミの足元に落ちた菓子の包みを指していた。
「その、甘い香りが気になってね。決して食べたかったとか、そういうわけでは――」
「みゃーっ」
男の消え入りそうな声は、猫のひと鳴きで完全に掻き消される。
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