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「ひぃっ」
「さ、これで文句はねえよな? 先生」
腰につけたウォレットチェーンを耳元で揺らすと、めぐるの体は小刻みに震える。
……まだチェーンで叩いてねえのに条件反射を起こすとは、とんだヘタレ野郎だ。
「恨めしい目で菓子の包みを見る暇があったら、その菓子を買う金でも稼いだらどうです?」
「ぐぬぅぅ……」
俺は定位置であるめぐるの真後ろには戻らずに、部屋の引き戸に手をかける。
引き戸が僅かに開くと、ラクシュミはするりと隙間を通り抜けた。
「ど、どこにいくんだい伊藤君?」
「俺がいないことを喜んでねえで書けよ? ……いいな?」
「は、はいぃい」
間抜けな返事を聞くのを半ばに、ピシャリと戸を閉めて、俺はラクシュミの後について行く。
ラクシュミは時々振り返って、急かすように「みゃー」と鳴く。
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