第9章~宝物~(冬の華編)

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予測済み。だからこそ、ユキが希望すれば三番目の育母の元に行かなくても良いように二年前、彼の二番目の育母の家から印鑑を持ち出し、許可書に代わりに認印を押して天帝から推薦派遣された軍人候補生として働けるようにした。…だが、それは酷いなんて一言では到底云い切れない泥沼に一人の大人としてまだ成長しきれていない、少年と呼んで相応しい見た目と心を持つ彼を生きたまま投げ込み、たった一つの願いを残して、後は夢も希望も全てのモノが奪われてしまう半生を過ごさせる環境に追いやる道案内をした。という事だ。が、彼は全く気付いていないし、生涯自分を疑う事をしない姿が視えている珠里夜には、何よりもそれが辛かった。…‥いや。それだけではない、 《ねぇ冬。夏神様が家にきてからも、シャワーぐらいだったら家のを使って良いのよ?》 「ありがとぅございます。でも、遠慮します。」 《あら。何故?》 「なんだかんだ厄介になってたけど、その夏神って相当ワルそうじゃないですか?そこにまた僕が入ったら姉さん気苦労でストレス溜まっちゃうんじゃないかな?」 《平気ですよ。》 「だとしても遠慮しますよ。姉さんが誇りに思えるようなオーナー兼店長になりたいし。その為にも一人暮らしでシッカリやりくりして行きます。だから、本当にもぅ僕の事は案じないで下さい。」 《~良い子ですね‥冬は…‥。》 立派に計画を立てて、夢を叶える為に様々な努力をしているのだ。曇りの無い瞳で真っ直ぐ前を見つめて、個人店を営む夢を見ているのだ。だから、珠里夜にとってそれは鋭利な刃物で身を切りつけられるよりも痛い深傷を身体や心に負わせてくるのだった。
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