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ここのところこんな思い出がふいに蘇る。伴との関係に終わりが見えているせいだろうか。
「麻生さんの手って……ムダ毛がなくってすげぇ綺麗」
麻生が思い出に浸っている間、加地は存分に麻生の滑らかな手を味わっていたようだ。
「確かに男の手なんだけど……指とか長くて、爪も艶々で……」
麻生の右手を両手で堪能している加地の頭を容赦なく叩いた。いてぇと怯んだ隙に手を引っ込める。
「気持ちわりぃな、お前っ!」
「えー、麻生さん、ゲイだろ? 男に触られるんだからいいだろ?」
「誰だーっ! 俺の性癖を勝手にバラしたのーっ!」
学生に向かって怒鳴った。麻生が職場でカミングアウトしているのは、ひとえに彼らのせいだった。女子学生たちが麻生を巡って職場で修羅場をやらかしたことがあるため、麻生は自分の性癖をはっきりさせたのだ。おかげで麻生を巡る無駄な戦いはなくなった。それはいいのだが、勝手に言い触らされて気分のいいものではない。
しかし麻生の怒りなど彼らにとって屁でもないようだ。ヘラヘラと笑って誰も白状はしない。
「ゲイの物凄い美形がいるって言ったら広大が興味持ってさ。バイトしたいって言うんだもん」
ひとりの女子学生が舌を出して言う。性癖がノーマルなら可愛いと思うかもしれないが、麻生にはふざけているようにしか見えない。
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