第3章

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 埴輪のレプリカのための型枠ができたのは八時を少し回った頃だった。バイトは七時には帰している。彼らは基本三時から七時までの都合のいい時間に来てもらうようにしていた。よほど納期が迫っていない限り、バイトに残業をさせることはない。そこまでの余裕はこの研究所にはなかった。  加地には帰宅の際、終わりそうな時間の目安を言っておいた。彼は一度帰宅してから来るそうだ。  戸締りをしながら外を見れば、しとしとと雨が降っていた。夏のゲリラ豪雨のように景気よく降らないところが梅雨の嫌なところだ。雨粒が小さいため、傘を差していてもふわふわとした水滴が服を濡らす。鬱陶しいことこの上ない。  ――夏までには決着、つけないとなぁ。  伴にかかっている魔法が完全に解けてしまう前に、いい思い出となって彼のところから去るのが理想だ。  ふいに麻生の携帯電話が鳴った。画面を確認すると加地だ。ふっと身体の力が抜ける。いやな瞬間だ。  伴からかかってきた電話だったら麻生はどう行動するだろうか。  伴は滅多なことでは麻生に連絡などしやしない。麻雀の誘いくらいか。遅い帰宅を麻生に告げることもなければ、声が聴きたい程度では絶対に電話などかけてこない。  伴からの電話なら用件はまず麻雀だろう。今の麻生は彼と打ちたいと思えるだろうか。  湧き上がる疑問を無理やり押し込め、麻生が電話に出ると、加地が職場の近くに車で来ているとのことだった。雨が降っていることを考慮した結果なのだろう。  ――面倒だなぁ……。  バイクを置いて帰宅してしまうと翌日、公共機関で出勤しなくてはならない。電車の乗り継ぎ上、バイクの倍は時間がかかる。そのため雨でも厳重装備をして麻生は職場に通っていた。麻生のためを思ってしてくれた加地の行動が煩わしい。  職場の戸締りをしたらすぐに出るので家の前で待っているよう伝え、麻生は電話を切った。直後に電話がまた鳴ったので反射的に出てしまう。
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