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雨音がうるさくて目が覚めた。かけた目覚まし時計よりも少し早い時間だ。見慣れぬ天井と寝心地の悪い布団でしばらく自分のいる場所が理解できない。
――ああ……。そっか。
加地のマンションだとゆっくり認識して再び目を閉じた。眠るためではなく、覚醒を促すためだ。
深呼吸と溜息の境目のような呼吸をして、身体を起こす。真っ白い壁と木目の床が、目覚めた麻生の視界に入ってくる。窓には白いカーテンがぶら下がっていた。布団も白い。それしか色彩がないような部屋だ。
そのカーテンの向こう側では煙るように雨が降っていそうだった。通勤が面倒でしかたがない。それでも伴のマンションにいた時より通勤時間は短いだけマシか。
のろのろと起きてダイニングへと向かう。そこで加地が朝食を準備していた。
「おはよう、弥彦。朝飯、もう少しかかるんだけど……」
「……まだ目が覚めてねーから、シャワー浴びてくる」
魚を焼く匂いがする。朝からマメだ。しかし麻生のためにそうしているのなら重くてかなわない。できるなら今までもそうであったと願う。それを確認などしたくもなかった。
シャワーを浴びて仕事へ行くため、加地に借りた服へと着替え、仕事鞄を持って再びダイニングへ行けばテーブルに和食が並んでいた。焼いたサバに豆腐の味噌汁、なすの漬物と冬瓜の煮物だ。
「すげぇな、朝から」
「煮物は昨日のだよ。弥彦の帰りが遅かったから余ったやつ」
「ふーん」
伴のところにいた時は麻生が朝食を用意し、洗濯をし、掃除をした。今は加地がそれをやってくれるので楽だ。服は加地のを適当に借りている。さっさと麻生の荷物を取りに行くべきなのだが、伴のマンションがあの香水の匂いで充満し、麻生の服にまで染みついていたらと思うと足が重かった。
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