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――ほんと、俺ってすごいよなぁ……。
片腕で頭を支え、こちらを見下ろしている伴の、整った顔を見てつくづく思う。他者に屈することはないだろう性格をしている男だ。人の行動を読み、先手を打つ。勝てると見込める材料を持っているから勝負を挑み、また挑まれて受ける。そんな男にこのダブルベッドを買わせたのだから。
「……俺、寝る」
麻生が再び伴に背を向けようとすれば、伴に止められた。
「せっかく起きてるんだろ? ちょっと運動しねーか?」
「……明日も仕事。千年もだろ?」
「まぁな」
「俺よりハードな仕事なんだから寝ろよ」
「せっかく弥彦(やひこ)が起きてる時間に帰ってきたからなぁ」
「変なお気遣い無用。俺、ほんと、もう寝る。お休み!」
今度こそ伴に背を向ける。酒の匂いはいい。香水の匂いだって、毎回違う香りならキャバクラ遊びでもしているのだろうと思える。しかし同じ香水の香りが続くのはいただけない。一人の女の影が濃すぎる。
伴の諦めたような溜息が聞こえ、彼も寝に入ったようだ。彼は麻生よりも毎朝早く起きる。そんな彼が寝息を立てるのはすぐだ。
――なんで今さら俺にちょっかい出そうとか思うのかねぇ……。
不思議でならない。今までの男で、女の影を匂わせておいて麻生にこんなちょっかいをかける者はいなかった。ちょっかいを出されなかったわけではないが、それらは彼らの勝手な思いをぶつけてくるようなものだった。伴のように麻生をどこか気遣っているようなものではない。
――いや、変な期待、しない、俺っ!
まだ伴が好きだからここにいる。出ていけと言われたらおとなしく出ていくが、今はまだ無理だ。
伴の寝息を聞きながら、いつ出ていけばいいのかと、麻生は先を思った。
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