第1章 蒼くん

5/6
前へ
/10ページ
次へ
「私は、蒼クンと一緒にいたかっただけで、邪魔したい訳じゃないから。」 深く息を吐きながら、言った言葉に嘘はない。 私の言葉を聞いて、蒼クンの瞳が赤く潤みだした。 そう、蒼クンはちゃんと私に情を持ってくれてる。 「もも」 「うん? あ、時間?」 「や、時間は気にしないで良いよ。」 今日は引き留めない私に、初めて時間を気にした私に、蒼クンは肩透かしを受けてるみたい。 ーだって予想通りに動いてしまったら、もう戻れないでしょ。 目の前の、氷が溶けて薄くなったカルアミルクを一口含む。 コップを置いたタイミングで蒼クンが話し出した。 「本当に、こんな決断しかできなくてごめん。必ずやり遂げて叶える。 いつか、俺が操縦する飛行機でももが旅行に行けると良いな。」 「うん。そう考えると不思議な感じがする、たのしみ。きっと蒼クン、制服似合う。」 重たい話題が一段落して、すっきりした顔の蒼クン。 複雑だけど、私が今まで難しい顔もさせてたんだ。 不甲斐なさを認めたくなかったけど、次に繋げるためには、冷静で居なきゃ。 少しの沈黙が寂しさをまとって雰囲気を湿らせる。 ー今日は長居しないで、帰ろう。 これからは、理由がないと会えないけど、その間に、私はしっかりした大人の女にならないと。 蒼クン。 「…へへ。じゃあ、私は帰ろうかな」 「あ、」 「これ以上いたら、、さすがに!泣いちゃうからっ」 精一杯の空笑いで、送り出させて下さい。 「……うん。」 私がバッグを持つ動作をすると、蒼クンが複雑な表情で席を立つ。 伝票を手に、精算に向かう。 そのうしろ姿を焼き付けようとじっと見つめる。 ー大好き、大好き、大好き ーだいすき。蒼クン。 首筋にかかるちょうど良い襟足も、 逞しい背中も。 「いいよ、俺が出す。」 「…ありがとう」 持ってた財布をバッグに直す。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加