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「ん。」
「ありがと。」
口直しのガムをもらってお店を出る。
煉瓦づくりの階段を降りて、駅まで歩く。
並ぶ2人の間に、無意識に隙間が空いて、無言が居心地を悪くする。
それでも、ゆっくり歩いて時間稼ぎしたいなんて思う私は、愚かなんだろうか。
もう彼の頭の中は、次なる事に向いているというのに。
駅についてお互いの電車の時間を確認する。
私の方が幾分早い。
くるりと向き合って、なるべく明るく言う。
「じゃあ、蒼クン。」
「……うん
「げ、元気でね」
「ももこそ。風邪引きやすいから気をつけて」
「っ…うん 」
優しい声色に何度もすがりつきたくなる。
衝動を隠すように慌ててPASMOを探す私を蒼クンが見守ってる。
「もも」
「ん?」
「…もし、」
「え?」
「……いや
受かったら、報告する」
「……うん…その時は、お祝いさせてね!」
「うん、ありがとな」
「ほんとに、応援してる…
頑張って。」
「うん」
「じゃあ、行くね!」
PASMOを持った右手を上げて軽く振る。
蒼クンも軽く、左手を上げて微笑む。
「報告、待ってる。」
「うん。必ずする。帰り道気をつけてな。」
「うん。じゃあ…… バイバイ。」
「…バイバイ。」
痛む胸を抑えつけて笑顔を作る。
今すぐうずくまって、どうしようもない現実を嘆きたい。
改札を抜けて蒼クンから見えなくなる所まで来て、足を止める。
突然ガクガクと足が震えだして力が抜ける。咄嗟に、手すりに捕まる。
襲ってくる喪失感。
歩かなきゃ。
歩かなきゃ。
家に帰らなきゃ。
それで着替えて、
メイク落として、
歯を磨いて、
お風呂に入って、
寝て、
起きて、ちゃんと仕事に行くんだ。
もう、蒼クンを取り戻す計画は始まってるんだから。
念入りに、
慎重に、
今度こそ
失敗しないように。
他の女に取られたままでいたくない。
絶対に、そんな事許さない。
私の人生を賭けて、この事実を覆してみせる。
大きく息を吸い込んで
下腹から力をこめて足を踏み締める。
ホームに向かう人混みで、私だけが色濃く浮きだってる気がした。
end
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